「フットサルをはじめたのは大学から」、日本一となった多摩大学の本質を突いた主体性とは

 2019年8月に開催された第15回全日本大学フットサル大会全国大会で優勝を飾った多摩大学体育会フットサル部。創設8年目にして大学フットサルの頂点に立った同部は、どのような変化を経て全国の強豪と渡り合えるまでになったのか。また、優勝したことによって大学にもたらしたものとは……。監督の福角有紘(ふくずみありひろ)氏と副学長で顧問の杉田文章(すぎたふみあき)氏に訊いた。

――大会を優勝で終えて

福角 ほっとしています。今までやってきたことが自分は間違っていないと信じていたんですけども、色々な方に評価していただくためには、やはり結果が必要。今回、日本一になれたことで自分のやり方、そしてチーム作りが形になったといえます。

杉田 率直に言うと、はじめは他人事のよう見えていました、「凄いな、本当に(日本一を)獲れたんだ」と。

――2012年のフットサル部創設とともに監督に就任してから、ここまでの道のりはかなりのステップアップがあったはず。シーズンを過ごすなかで、選手たちの変化はあったか  

杉田 それはもう、すごくありまして。私は監督に「本を書こうよ」と、言っているぐらいです。現代の教育の世界で広く言われている「アクティブラーニング」という言葉があります。これは主体的・能動的な学習を指します。本校も教育の目標として「アクティブラーナーの育成」を掲げています。大学を卒業したら学ぶことが終わりではなく、社会人になっても学びは続く。これが本来の学びの姿です。

杉田文章副学長

 部が立ち上がった当初、監督と選手たちは「選手が監督を見上げる」関係でした。その時、私は直感的に「これでは勝ち上がって行けないな」と、感じました。

 例えば、フットサルではパワープレーという戦術があります。ベンチがその戦術を選択した時に、ピッチにいる選手はすばやくそれを体現しなければなりません。しかし当初、選手たちには迷いがありました。その戦術を「やらされていた」に近い状況だったと思います。

 アクティブラーナーのように、主体的に考える姿勢を芽生えさせるには、時間がかかったといえます。もちろん学生ですから、変化に時間を要するのは理解していました。

 ところが今年の春が明けた頃でしょうか、「何が起こった?」と思うくらい、選手たちの意識が変わりました。聞こうとするとニヤリと笑って詳しく教えてくれませんでしたが、観客席から映る彼らの姿は、明らかに変化していました。

――まさに大学が進めるアクティブラーナーの輩出が、フットサル部をとおして実現できたと

杉田 はい

――Fリーグができたことにより選手の最高目標ができたが、それを目指すのはかなり狭き門。フットサルを生涯スポーツとして捉えた場合、監督は選手に在学中、学んでほしいことは

福角 「スポーツと人生」のような話になるのですが、フットサル部の活動によって人生を魅力的に、そして充実して過ごせるようになってほしい。勝敗に関係なく、です。結果が全てではないと思っていますので。日本一になれたことは大きなことですが、大切なのはそこに至るまでの過程で、自分たちが何をしてきたかをしっかりと捉えることです。何をしたからうまくいって、障壁を乗り越えられたのか。何に躓いて苦戦したのか。そういったことを個人ではなくチームで行動していくことで、この先の人生において、大きな自信になると思っています。

――次期のリーグでは追われる立場となり、選手・監督ともにモチベーションの持ち方がガラリと変わると思われるが、チームとして大切にしていることは

福角 私が大切にしていることに「オフ・ザ・ピッチ日本一」というものがあります。これは大きく二つにわけることができます。

 ひとつは選手としての身体的準備。もうひとつは人間としての社会性です。これは両方磨いていかなくてはなりません。選手として能力が勝っていたとしても、それをコントロールする社会性が備わっていなければ、意味がありませんから。

 つまり、今回の日本一をなし得たのは「オフ・ザ・ピッチ日本一」を選手たちが身につけることができたからだと確信しています。この理念は決して曲げず、この先も継続して取り組んでいきます。

 もし、優秀で実績を持った選手を寄せ集めたチームで結果を出したとしても、そこにこの理念が浸透していなければ、私はこの仕事にまったく興味はありません。理念に対して選手たちが主体的に行動し成長する。これが選手たちの人生の財産になると思っています。

多摩大学フットサル部の選手

――部の優勝によって多摩大に興味を持った進学希望者がいる中、大学としてはどのような生徒に来てほしいか

杉田 ポテンシャルがあれば、どなたでも本校にきていただきたい。そのポテンシャルですが、自分が気づいていないことも多くあるでしょう。じつはフットサル部にいる選手の中には、大学から競技をスタートした人もいます。しかも高校時代はサッカー部といった球技ではなく、陸上部ですよ。

 私は部員に「君たちは多摩大のシンボルです」と声をかけます。大学に関係する学生や職員など、皆それぞれ生活があり人生があります。そのなかで様々なことを乗り越えていくわけですが、フットサル部は競技生活をとおしてそれを表現しているのです。目標に対して戦略を立て、問題が発生すれば解決の糸口を探す。その姿、在り方が他の人にとってとても意義があり、多摩大のシンボリックな存在といえます。

 多摩大では「現代の志塾」と掲げ、志を持ち現代社会の問題に自ら立ち向かい、解決に向けて行動をとる人材育成を目指しています。フットサル部は本学の理念をまさに体現しています。試合の結果ではなく、在り方に意味があるのです。

――精神面のアプローチは、多感な学生だと指導が難しいのでは

福角 ベースとして選手一人ひとりに愛情を持って接するなかで、良いことも悪いことも、しっかりと伝えます。やっていることはそれだけです。

――強豪といわれるチームの指導者は、指導理論や方法が確立されそれを徹底しているが、監督にはそういったものがあるのか

福角 特にないです。その時に合った方法で行います。例えば、選手をコントロールするのにトップダウン、ボトムアップなど様な方法がありますが、私は臨機応変に使い分けています。頻度もタイミングも色々で、日によって変えたりもします。

――今回の優勝の核となる要因は

福角 詳しくは言えませんが二つあります。一つは選手の主体性。そして主体性を醸成するための仕掛け作りです。戦術面での要因は、大きく捉えていません。実際に戦術といえる形は数えるほどですから。

 あとは、「大学生とは」をずっと考えていました。どんな生き物なんだろうと。「言われてやるのは嫌。だからプロチームのように監督が徹底して選手の動きを管理するのは無理だろう」「大学生はどちらかと行ったらベースをある程度与えて、あとは自由にやらせるほうがストレスなくできるのではないか」、そういったことの試行錯誤でした。

 先程お話した主体性を醸成する仕掛け作りが、これに繋がります。選手には自由にやらせる。だけどあるスキームの枠から外れそうになったら、修正させる。こうした取り組みを四年間、繰り返しさせることで、単なる自由な行動から、目的に沿った創意工夫の行動に変化していきます。

――つまり監督の大きな役割は、選手が活動する土台の構築であると

福角 そうです。監督就任から継続して取り組んだ土台作りが此処数年で成果を出してきました。今の3、4年生は主体的にどんどん行動します。練習も自分たちで考えています。1、2年生はまだそこまでできないので、徐々にという感じです。

 指導理論や方法があるかと聞かれ、これだというお答えができなかった理由がここにあります。主体性が完成している3、4年と土台をしっかり作る必要のある1、2年では、コントロールの質が全く異なるからです。

――これほど話のなかで「主体性」という言葉が強調されるなか、大学という立場から感じることは

杉田 主体性を重要な教育のファクターとして掲げている、スポーツを含む教育機関は数多くあります。しかし私が今回驚いたのは、「学生が主体性を発揮しながら結果も出した」ことです。

――「二兎追う者は一兎も得ず」を覆す結果をもたらしたもとは

福角 そのスキームのなかで選手に得てほしいことを、細かく洗い出し、とにかくやっていることに意味づけをしました。目的を常に意識させることで、選手自身も腹に落ちた状態になります。そうすることで、「自由にやらせること=何をやってもいい」という間違った方向から修正できるようになっていきます。

杉田 監督は情熱を持って指導にあたっていますが、その中身はかなり緻密で理論が整理されている印象を受けます。

――最後に、5年、10年といった長期的な目線から、多摩大フットサル部を今後どのように発展させたいか

福角 とても良い質問だと思います。長期で見ることは、今の選手が誰もいないということですね。

 私のキーワードは「5連覇」です。それは他の実績を例に挙げるとわかりやすいでしょう。青学(駅伝)や帝京(ラグビー)は、連覇を築き上げてきました。これらの監督は初優勝の後、「◯連覇」を想像し、そこから逆算して指導にあたっているはず。

 私も同じように考えた時、「10連覇だと想像がつかないことが多い。反対に近い将来にしすぎると俯瞰した計画が立たない」と思いました。また、大学フットサルでは神戸大学と順天堂大学の3連覇が最高記録。それらを総合的に考えると5年という数字がしっくりきます。

 そして、選手にとって大学生活は4年となりますが、毎シーズン結果を出せるチームになるために強烈な努力をして、その過程における成長を感じてほしいです。

 これからできる新生チームが超えるべき相手は、今のチーム。それにあたり、私はゼロからのチーム作りとなります。選手たちが最大限に力を発揮するために、選手がのびのびと活動できる土台作りと、目的を明白にして行動できる仕掛けを、より緻密に構築していきたいと思います。

福角有紘監督

杉田 大学進学を希望する人にとって、大学を選ぶ指針の一つに偏差値がありますが、それだけが大学の魅力ではありません。大学で何を学びたいのか、将来どうなりたいのか。そういった意欲こそが、実社会に出た時に生きてきます。

 教育というのは、なかなか目に見えないことが多いものです。その反面、フットサルをはじめとしたスポーツは、誰ものがわかりやすい結果が出ます。結果が出たことに対して、選手がどのような努力をしたのか。その在り方を本校の職員や学生がみて、励ましや刺激を受けてほしい。そうした影響が至るところで生まれることでシナジーが発生し、多摩大に関係するすべての人が、より充実した時間を過ごせると思っています。

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