楽しさを伝え続けるのが使命。指導者がサッカーを教える前に考えること

バルセロナ、レアル・マドリード、ボローニャ……、若き日本人選手が世界に名を馳せるクラブのピッチに立つ。まだ、実力が通用するがわからないが、クラブの「お目に適った」ことは事実だ。

そう考えると日本の育成土壌は、少しずつではあるが肥えてきているのだろう。そこには、日々の子どもたちが成長する姿をあたたかく見守る指導者の姿がある。

ただ、「指導」と聞くと、指導者から教えてもらうことに大人の目線は奪われがちだ。日本は習い事文化が古い。古くは寺子屋からその名残を現代に残し、学問にとどまらずスクールや教室と名のついた習い事が多く残る。

しかし、サッカーは「教わる」から入ってしまうと、本質的な部分が隠れてしまうとJ.FC宮崎でスクールコーチを務める中村宏紀(なかむら・ひろき)氏、長友耕一郎(ながとも・こういちろう)氏は口を開いた。

サッカーをはじめた子どもには動く・蹴る楽しさを感じてもらう

はじめに長友氏が日本の子どもとサッカーの関わり方について話した。

「最近では日本でもサッカーの技術や戦術についての情報が溢れています。もちろんそれはすごく大切で、ジュニアやジュニアユースからしっかりと教えていくことは、大きなアドバンテージになると思います。

ただ、サッカーをはじめたばかりの子に対して、いきなり戦術を教えることは難しいというか、あまり意味がありません。

というのも、サッカースクールに通うすべての子どもが、サッカーに熱心かといえば、そうではないからです。この事情はグラスルーツで携わっている指導者であれば、多くの人が経験していることだと思います。日本という国が、欧州や南米と違ってサッカーが一番人気のスポーツではないことが大きな理由でしょう。日本の日常で、『サッカー』が目に映る機会は、なかなかないですから」

そう話した長友氏。確かに、メディアを例に上げるとその違いがよくわかる。日本ではスマートフォンで好きな情報を手軽にいつでも見ることができるが、それは好きという能動的な気持ちがある人の行動だ。

朝・昼・夕のテレビニュースでサッカー情報が毎日流れているか。街を歩くとサッカー選手が広告塔になっているポスターはあるか。もちろんサッカーが持つ経済効果の違いもあり、日本ではこうしたサッカーの露出は低い。私たちが生活している日常で、何らかの「サッカー」に出会う回数が低ければ、子どもたちの興味関心がどうなるか簡単に想像できる。

そういった背景がある中でもスクールに来てくれる子どもたちにとって、はじめにサッカーを楽しむというステップは自然なことなのだ。

「サッカーといってもスポーツなので、自分の身体を自由に正確に動かせることがベースとなります。ですので、スクールのはじめはラダーやマーカーを使って、コーディネーショントレーニングから行うことが多いです。

走るという動作ひとつとっても、姿勢や足運びをちょっと意識させるだけで、きれいなフォームになります。子どもたち本人は気がついていませんが。ボールを使ったトレーニングでも同じです。スクールが始まる前にコーンの上にボールを乗せて、それを当てて落とす遊びをやります。

シンプルですが、仲間とやるのでゲーム性がでてきて子どもたちは熱中しますよ。ボールを浮かせないと当然当たりませんので、何人かの子どもは蹴り方を考えながらやっています。トレーニングというほどの内容ではないですが、ボールを蹴る楽しみを感じてもらうにはとても効果的です。

こういった『楽しい』をたくさん伝えていくことが、我々指導者がサッカーを教える前にすべきことだと思っています」と長友氏。

それほどサッカーをしたい動機を持っていなくても、サッカースクールやクラブに入ることは、日本では自然なこと。大切なのは指導者がその子をどれだけサッカー好きにできるかだ。

競技レベルの差に関係なく、サッカーが楽しめる環境を

次に中村氏が子どもたちのレベルによる二分化が生まれていると語る。

「日本だとサッカーで競技性が高い所でプレーをする選手とそうでない選手に大きく別れています。正確にいうと、トップレベルの選手は環境も人も満たされているから、モチベーション高くどんどん上に行こうとする。

反対にそうでない選手を取り巻く環境は、なかなか厳しい。せっかくサッカーというスポーツをやっていたのに、環境のせいでスパイクを脱ぐのは本当に残念。その選手のために、明日グラウンドを用意することはできませんが、教える指導者の意識は今すぐにでも変化させることが可能です」。

FIFAが出した『FIFA-Big Count』と各国の人口から、その国における競技者人口比率で一番多かったのがドイツの約19.8%。日本は約3.8%にとどまっている。「トップ選手を輩出するために競技者人口を増やす」のではなく、「競技者人口が増えたからトップ選手が輩出される」環境を、日本は整えなければならない。サッカーのみならずスポーツは、楽しいからプレーするのであって、競技志向になるのはあくまで延長線上なのだから。

長友氏も中村氏も、現役時代は鎬を削って戦ってきたプロフェッショナルだ。指導者となりトップからジュニアまでの選手と触れ合う中で、勝利、普及、育成に奮闘している。それでも二人の根底には、サッカーを楽しんでほしいという、揺るぎない原点があった。

<プロフィール>
中村宏紀
なかむら・ひろき、大阪府出身。
1974年4月7日 45歳
(選手歴)
FC 琉球-MIOびわこ草津-ブラウブリッツ秋田
(指導歴)
2007年 FC琉球GKコーチ(選手兼任)・ジュニアユースGKコーチ
2008-2009年 MIOびわこ草津トップチームGKコーチ(選手兼任)
2010-2011年 ブラウブリッツ秋田トップチームGKコーチ(選手兼任)
2012-2014年 横浜FCジュニアユースGKコーチ
2015-2016年 ニッパツ横浜FCシーガルズ監督
2017-2018年 ノルディーア北海道監督
2019年 J.FC MIYAZAKI GKコーチ

長友耕一郎
ながとも・こういちろう、宮崎県出身。
1982年12月7日 36歳
(選手歴)
鵬翔高校ーアビスパ福岡ー静岡FCーJ.FC MIYAZAKI
(指導歴)
2016年 J.FC MIYAZAKI 監督(選手兼任)
2017-2018年 J.FC MIYAZAKI U18監督
2019年 J.FC MIYAZAKI コーチ

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