今や新人選手の半数以上に!Jリーグに大卒Jリーガーが増える理由

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2020年、新人選手の半数以上は大卒

日本は欧州のクラブと比べて、大学を卒業してからプロデビューする選手が多いとされていますが、2020年Jリーグに加入した新人選手は204人であり、大卒選手は半数以上の115人でした。J1史上最速優勝を果たした川崎フロンターレの場合、GKを除くフィールドプレイヤー25人中19人が大卒もしくは在学中という結果になりました。

2013年に発表された徳山大学の研究によると、Jリーグの新人選手の内訳について、「ユースからの昇格と大卒が増える一方、高卒選手は減少している」と報告されました。

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出典:徳山大学の研究より引用

1996年から2012年の間にJ2へ参入するチームが増えたので、新人選手の総数も増加していますが、高卒選手は減る一方であることが分かります。2012年の段階で、新人選手の半数近くが大卒でしたが、2014年にJ3が発足してさらにその傾向が加速したと考えられます。

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J1:高卒選手は大きく減少

徳山大学の研究では、J1とJ2の新人選手についても調査しています。まずはJ1の新人選手の傾向をデータで読み解いていきましょう!

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出典:徳山大学の研究より引用

1996年のJ1新人選手に占める大卒の割合は20%ほどですが、徐々にその数を伸ばして、2012年には30%を超えている一方で、高卒選手は50%から15%(1996年→2012年)へと大きく減少しています。また、ユース昇格は20%から50%へと大きく増加しています。

注目したいのは、調査期間中に新人選手の獲得数が半分ほどに減っていることです。J1クラブの新人選手獲得戦略として、育成目的の若手選手はユース出身から獲得し、即戦力として大卒選手を獲得している一方で、高卒選手の獲得には後ろ向きになっている傾向があるようです。

J2:高卒選手はもはや希少品種?

J2は1999年に発足したため調査期間はJ1よりも短いものの、時系列データを調べるとJ1とは違った傾向が見えてきました。

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出典:徳山大学の研究より引用

J2は当初10チームでスタートしたため新人選手の獲得数も少なかったのですが、チームが増加した2012年になっても大卒選手の獲得割合が50%を超えています。2012年のユース出身者は30%弱で、高卒選手は10%程度です。1999年には高卒選手の獲得割合が50%だったことを考えると、チームと新人選手が増加しても高卒選手の獲得数が増加していないことになります。

徳山大学の研究では、J2に大卒選手が多い理由を以下のように考察しています。

大学出身の選手は、J2クラブのニーズにマッチしてい ると言える。なぜなら、大卒選手は育成の時間と手間がかからずにチームの戦力となるためである。経営面から考えると若手選手の育成には非常にお金 がかかる。しかし、大学卒業選手であればある程度完成した選手を獲得する ことになるため、育成費がかからない。                                                              徳山大学の研究より引用

J2クラブの経営状況では、高卒選手を育成目的で獲得するよりも、即戦力となる大卒選手を獲得しつつ、ユースの選手を育成する方針なのでしょう。高卒選手を獲得するにしても、すでに実力のある選手に絞り込む傾向が強いと言えそうです。であるならば、J3のクラブはこの傾向がより顕著であると容易に想像ができます。

高卒選手の厳しい現実

日本で大卒選手が増える背景には、クラブが即戦力を求めているのと同時に、選手側にも理由があります。

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出典:徳山大学の研究より引用

高卒選手の1年目出場数を見ると、J1とJ2どちらでもほとんど出場できていないことが分かります。どれほど強いチームに所属していても、試合に出場できなければ実力を伸ばすことは難しいでしょう。大学に進学した場合は、リーグ戦やカップ戦など多くの試合を経験することができます。また、プロは結果が出なければクビになってしまう厳しい世界であり、新人選手であっても例外ではありません。大学はプロに比べれば結果で判断されることの少ない環境なので、失敗を恐れずプレーできる利点もあります。

高卒選手を育成する経営体力のあるクラブは多くない

Jリーグの新人選手に高卒が減って大卒が増えた理由は、Jクラブ経営情報2005-2019からも見えてきます。

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図1:Jクラブ経営情報2005-2019より編集部作成

図1はJ1クラブのチーム人件費になり、選手や監督の年棒やスタッフの給与が含まれています。J1クラブには15人以上のA契約選手が所属している必要がありますので、C契約となる新人選手の加入する余地が少ないのが現状です。さらに、J2降格争いをするチームは財政的な余裕がないために、高卒選手を獲得して育成することが難しいことが分かります。

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図2:Jクラブ経営情報2005-2019より編集部作成

J2クラブはA契約の選手が5人以上所属していれば良いのですが、J1クラブと比べてチーム人件費が少ないことが分かります。

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出典:徳山大学の研究より引用

また、徳山大学の研究によると、J2の大卒新人選手の出場試合数は高卒新人選手よりも多いことが報告されています。したがって、即戦力として外国人選手を獲得したくてもできず、育成に資金や人員を回す余裕がないために、即戦力となる大卒選手が多くなっていることが分かります。

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Jリーグの控え選手か、大学のレギュラー選手か

ここまでは主にJリーグクラブ側の事情から、大卒選手が増えた理由を考察してきました。ただ、現在の潮流が生まれた背景には、選手の意識の変化もあるようです。

以前はJリーグの控えメンバーによるサテライトリーグがあったのですが、2009年に中止となってからはG大阪Uー23のような一部のチームがJ3で闘う以外に新人選手が実戦を経験する場が少なくなりました。このような状況では、「プロとして控え選手」であることよりも、「大学のレギュラー選手」である方が良いと判断するのは不思議なことではありません。

徳山大学の研究では大卒選手にユース出身者が多いことも報告されており、トップチーム昇格を断って大学進学を選んだ選手もいるとのことです。川崎フロンターレのように大卒選手を積極的に獲得するチームも存在する現状では、大学で主に肉体的な強さを身に付けながら実戦経験を積むことができるのは、選手にとっても大きな利点です。セレッソ大阪の小池裕太選手のように、大学在学中に海外チームとプロ契約を締結する例もありますので、キャリアの遠回りと思い込まず選択肢のひとつとして考えてみてはいかがでしょうか?

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