常勝軍団の鹿島アントラーズを支える経営戦略とは?
1992年のJリーグ発足時に加盟した10クラブのことをオリジナル10といいます。開幕から30年近いJリーグの歴史の中で、オリジナル10のうちJ2に降格したことがないのは、鹿島アントラーズと横浜マリノスの、たった2チームしかありません。
鹿島アントラーズはその中でも、日本国内の獲得タイトル数が19と、2位以下に大きく差をつけています。2018年にはアジアチャンピオンズリーグ(ACL)のタイトルも獲得しましたので、国内外合わせて通算20冠を達成しました。
ピッチ上での内容よりも結果にこだわるスタイルや、ジーコ・スピリットと呼ばれるメンタリティや伝統がクラブに根付いていることが強さの一因だと、OBや関係者は口にします。
クラブ経営を眺めてみると、鹿島アントラーズの強さの秘密が別の側面からも見えてきました。常勝軍団の経営戦略はいったいどうなっているのでしょうか?
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健全経営で、強い組織をつくる
Jクラブ経営情報2005-2019からから見えてきたのは、鹿島アントラーズは2005年から最新の決算情報がある2019年まで、収入を大きく減らすことなくクラブ運営をしているということです。

図1:Jクラブ経営情報2005-2019より、編集部作成
Jリーグの売上高の中で人件費の割合(売上高人件費率)が、ほぼ50%を下回っていて(※1)、健全経営といわれるラインを維持しているようです。世界的にもドイツ・ブンデスリーガと並んで、経営体質は良好です(※2)。(※1会計監査法人KPMGの報告による)(※2デロイト・トーマツ・コンサルティングも同様の報告をしています)
その中でも鹿島アントラーズは、特に安定した経営を行っていることが上の図からわかります。ちなみに、スペイン・リーガエスパニョーラのバルセロナは、売上高人件費率が70%を超えているため、選手の補強に資金を投入することができないなどの問題が起きています。
開幕当初、Jリーグにやってくる外国人選手には、各国を代表する選手が多く在籍していましたが、近年は中国や中東諸国のリーグに移籍するケースが多くなり、実績ある外国人選手の獲得が難しくなっています。ヴィッセル神戸やサガン鳥栖のように、有名な外国人選手を獲得するには資金が必要ですが、J1のチームであっても獲得できるチームは限られているのが現状です。
収益の多様化にも抜かりはない
2017年、スポーツ専門の定額制動画配信サービス会社を運営するDAZNが、Jリーグの放映権を10年間総額2,100億円で取得しました。これに伴って、鹿島アントラーズの収入も大きく増加しましたが、放映権に基づくJリーグの分配金だけに頼らない多様な経営体制の整備を進めています。

図2:鹿島アントラーズの収入内訳。編集部作成。
図2を見ると、すべてのカテゴリーで収益が増加の傾向だということが分かります。
特に、Jリーグ分配金(黄色)とともに大きく目立った増加が見られるのが、アカデミー関連からの収入です。アカデミー関連収入とは「各Jクラブの育成事業に関する収入」のことで、主にサッカースクールの運営事業のことです。
鹿島アントラーズは本拠地の鹿島スタジアムのある茨城県を中心に、多くのサッカースクールを運営しており、約3000名が活動しています。よく「育成事業は将来への投資」だといわれますが、鹿島アントラーズはしっかりと収益のある事業にしていることが伺えます。そして、将来的にトップチームに上がれるような有望な若手選手が育てば、クラブにとっても大きな財産になるでしょう。
2020年度はコロナ禍の影響で、入場料収入や物販収入の現象が予想されていますから、収益の多様化を抜かりなく進めていることが有利に働くのではないでしょうか。
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若手選手の育成と即戦力獲得の両立
鹿島アントラーズは有望な高卒選手を獲得して、時間をかけながら育成することを得意としています。高卒で入団した選手では、昨年引退した内田篤人氏(2006-2010年在籍)やドイツ・ブンデスリーガのヴェルダー・ブレーメンに所属している大迫勇也選手(2009-2013年在籍)が有名ですが、2020年も4人の高卒選手が試合に出場しています。しかし近年は、下記のように若手の中心選手が海外のクラブに移籍するケースが増加しています。
海外移籍選手(2018〜2020)
2018年
植田直通選手(サークル・ブルッヘ)
昌子源選手(トゥールーズ)
2019年
鈴木優磨選手(シント=トロイデン)
安部裕葵選手(バルセロナB)
安西幸輝選手(ポルティモネンセ)
過去2年間に5人もの中心選手が海外へ移籍したために、即戦力となる外国人選手を獲得する必要があり、その結果人件費が上昇したと考えられます。

図3:鹿島アントラーズの支出内訳。編集部作成。
ただ、即戦力を獲得しながらも、長期的な目線で選手を獲得する方針を変更するつもりはないことが、2018年以降も高卒選手を獲得し、試合で積極的に起用していることからも伺えます。
高卒新加入選手(2018〜2020)
2018年
関川郁万選手(流通経済大学付属柏高校)
2019年
山田大樹選手(鹿島アントラーズユース)
松村優太選手(静岡学園高等学校)
荒木遼太郎選手(東福岡高等学校)
染野唯月選手(尚志高等学校)
2020年
小川優介選手(昌平高校)
須藤直輝選手(昌平高校)
鹿島アントラーズの人件費は上昇しているとはいえ、健全経営であることには変わりありませんし、即戦力を獲得しながらも若手選手を育成する方針は今後もぶれることなく、鹿島らしいチーム編成をしていくのではないでしょうか。
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25年、変わらない強化方針を支える男
鹿島アントラーズがこれほど長期にわたって安定した強さを維持できるのは、チームの一貫した強化方針があるからであり、一貫した強化方針を実現できる要因の一つが、25年もの長期に渡って強化部長が変わらないことにあります。その強化部長を務めるのが、鈴木満氏です。
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鈴木氏によると、鹿島アントラーズは基本的にフォーメーションを「4-4-2」としており、ポジションごとに適性を定めて、選手を配置しているそうです。ポジションごとに求められる能力が明確なことも特徴であり、センターバックでは対人能力が高く、特に空中戦に強い選手を重宝する傾向があることは有名です。現所属選手では、犬飼智也選手が空中戦の強さを発揮していますし、高卒2年目の関川郁万選手も徐々に出場機会を増やしており、鹿島伝統のセンターバックとして活躍が期待されます。
安定した経営戦略が常勝軍団を支えている
フォーメーションやポジションごとの適性、若手選手を育成する強化方針が変わらないことで、安定した強さを発揮している鹿島アントラーズですが、やはり若手選手の海外移籍が相次いでいることに悩まされているようです。それでも、若手選手の育成方針は変えず、即戦力を獲得しながら、常にタイトルを狙えるチームを構築できるのは、一貫した強化方針を掲げ、実践してところにあるようです。そしてその強化を支えるための、安定した経営戦略が鹿島アントラーズを常勝軍団と呼ばせる理由といえるのではないでしょうか。
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