いったいいつから戦術を教えればいいのだろうか。そんなことを考えている小学生年代の指導者は少なくないだろう。「小さいうちから戦術を教えることは考え方を狭める」と考えている指導者の話を聞いたことがある。果たしてそれは本当なのか。ドイツでU8からU19まで幅広い年代で指導している中野吉之伴が、本連載ではドイツの指導現場での話を交えながら、育成年代に実際どのように戦術を指導しているのかを伝えていく。記念すべき連載第1回は、いつから戦術を教えるべきなのか、いやそもそも戦術とはなんなのかを改めて掘り下げていきたい。
子どもたちはすでに、日常で戦術に触れている
サッカーとはどんなスポーツだろうか。サッカーはルールのあるボールゲームだ。互いに味方と協力して、定められたピッチの中で決められた時間内に相手より多くゴールを決めたチームが勝つ。精力的に動き回ってボールを奪い合い、ボールを巧みに扱うことも大切だが、ゲームである以上、ルールがある中での戦い方を考えるのは普通のことだ。
戦い方というものは戦術という言葉で表現される。熟語という性質上なのだろうか、どこか難解なイメージを持たれてしまうことが多い。「戦術って小さい子には難しいですよね」という話もよく聞く。でも本当に戦術とは難しいことなのだろうか。そもそも子どもたちが普段している遊びにも「戦術」はある。
泥棒チームと警察チームに分かれて捕まえたり逃げたりする遊びとして「ドロケイ」がある。警察が泥棒をタッチして捕まえて、相手を全員「牢屋」とされる場所に捕獲できたら勝ち。捕まった泥棒は味方が助けに来てくれてタッチしてくれたら解放されるという遊びである。地域によって呼び名ややり方は違うと思うが、おおよそ同じような遊びは全国どこにでもあると思われる。
子どもたちはただ何も考えないで追いかけ続けて遊んでいるのだろうか? いや、子どもたちなりに作戦を考えるはずだ。ある子は相手に見つからないようにそっと忍び寄って一気に距離を詰めようとするし、ある子はあえて「牢屋」周りにだれもいないように見せかけておいて、相手が寄ってきたところを一網打尽にしようとする。警察側がそうした戦い方を見いだすと、泥棒側も負けじと逃げ方や助け方を編み出そうとする。立派な戦術ではないか。
サッカーも一緒だ。ただボールを追いかけ回していたら何とかなるゲームではない。ただ一人でボールを持って仕掛けていけばうまくいくわけではない。ドロケイにおける相手をおびき寄せてから捕まえるという発想は、サッカーでいえば相手に攻撃をさせておいてからボールを奪って一気に相手のいないところを強襲するという考えとそれほど変わらない。
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