U10年代、プレーインテリジェンスを兼ね備えた1対1

 U10年代の選手は精神的な成長を経て何ができるようになるのか。そこでどんなトレーニングをすればよいのかを今回は伝えていきたい。特に伝えたいのは、“プレーインテリジェンス”についてだ。

 前回のコラムでもお伝えしたが、試合において指導者が勝負へのこだわりがすぎると、いろいろなところで弊害が出てしまう。できないことばかりに目が向いてしまい、極端にミスを嫌がっては、子どもたちに「余計なことをするな。さっさとパスを出せ!」と怒声を飛ばす。

 あるいは事細かい戦術用語を並べて、「あいつが相手をピン止めしているんだから、ハーフスペースに立ってインナーラップをしかけるんだ」のように、子どもたちが理解できないことを要求しまくる。

 いずれの場合も、キャパシティーオーバーになった子どもたちはボールを受けたら、とにかくすぐにボールを離そうとすることばかりに気がいき、結果としてパスとしても成立していないプレーが続いてしまう。

 それもそうだ。味方がどんな状況か、自分がどんな状況か関係なく、怒られないためのプレーで逃げるしか、彼らに行き場がないのだから。

 だがそうしたことをしていて、本当にサッカーがうまくなるだろうか。人間として成長できるのだろうか。

 「この経験がのちに生きる」ということは残念ながらない。その段階で対応できるだけの能力と成長具合があった子は、ある程度経験として蓄えることもできるだろうが、多くの子どもたちにとっては「やってはいけない」プレーが増えるだけ。

 何を、いつ、なぜ、どこへ、どのようにプレーするかの判断基準が全くないまま大きくなっていく。それはただただもったいないことなのだ。

 この年代において大事なのは積極的な1対1へのチャレンジとされている。10歳前後になると自信が高まってきて、意欲的に勝負するような傾向が出てくるからだ。ただ、こうした傾向も、それまでどういった成長を遂げてきたかに大きく左右されてしまう。

 U8-U9年代まで、心の底からサッカーを楽しみながら、みんなが試合に出れる環境のもと、チームスポーツとしてのあり方を学び、試合をすることの意味を知り、相手チーム・審判へのリスペクトを身につけ、仲間の存在、指導者の存在を感じながら育ってきた子。

 対して、試合にもほとんど出してもらえず、一方通行の指導を受けて、相手チームは敵と植え付けられ、決して平等はないポジション争いの中で生きざるをえなかった子。

 当然、心の面でも、頭の面でもそれぞれが持つキャパシティーの量と質が異なってしまうのだ。健全な子どもの成長を願うならば、それぞれの年代で適切なアプローチができるように、大人が真剣に考えなければならない。

 さて、プレーの話に戻ろう。そういったわけでこの年代では「積極的な1対1へのチャレンジ」が大事なキーワードになるわけだが、だからと言ってピッチ上のどこであっても、試合の状況がどうであってもボールを持ったらとにかくドリブル、というのはNGだ。

 それはサッカーというチームスポーツゲームで、どのように自分たちが有利にゴールを狙い、ゴールを守ることができるかという原則に反するからだ。ドリブルはあくまでもゴールへの道を切り開くための一つの手段。だからこそ、その使い方を学ぶことが大切だ。

 積極的に有効なドリブル勝負ができるようになるためには、プレーインテリジェンスが欠かせない。プレーインテリジェンスとは、「チームが有利な状況になるために、相手を故意的に動かすためのポジショニングや走りを意図しながら、現時点、そして未来的に自分がすべき動きを実践すること」と考えられる。

 自分のプレーは「チームが有利な状況になる」ために、作用することが求められる。そのためには、「どの状況からどんな状況になることが、積極的な1対1へのチャレンジへ最も効果的に結びつくのか」そのイメージを描けるようになることが大切なのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/41歳。ドイツサッカー協会公認A級ライセンス保持(UEFA-Aレベル)。01年渡独後地域に密着した様々な町クラブでU8からU19チームで監督を歴任。SCフライブルクU15チームで研修 を積み、現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督と、息子がプレーするSVホッホドルフでU9コーチを務めている。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。ナツメ社より出版の「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」は18年サッカー本大賞優秀賞に選出。WEBマガジン「中野吉之伴『子どもと育つ』」