「長時間=うまくなる」に根拠なし。スポーツ科学にもとづいたトレーニングオーガナイズを意識しよう

甲子園の季節がやってきました。全国のお茶の間に感動を呼ぶ球児の姿は、日本の風物詩ともいえます。2019年のその大会を目指す県大会で、物議を醸す事件が起きました。
大船渡高校のエース投手が岩手県大会決勝で、疲労軽減を理由に出場せず、チームは10点差で敗れたのです。

この結果、佐々木朗希(ささき・ろうき)投手の最後の夏が終わりました。試合が終わってから大船渡高校には、多くの苦情電話が殺到したといいます。さらにメディアでも「ご意見番」と言われる人から「ケガを怖がったんじゃ、スポーツをやめた方がいい。みんな宿命なんですから」と、一喝されてしまいました。

この件に関して、賛否両論になるのは自然な流れでしょう。発言者の立場によって意見が別れるので、一概に言い切れません。しかし、プレーヤーズファーストの立場ならば、大船渡高校の監督が下した決断に、異議を唱える者はありません。

サッカーにおいても、長時間練習の文化は根強く残っています。特に夏場は、過酷な環境下で疲労困憊になるまで身体をいじめ抜くことで「一皮剥けた」と思い込みやすいものです。

サッカーでのトレーニング時間は2時間

サッカーであれば世界のトップチームでもトレーニング時間は、せいぜい2時間です。(ここで言うトレーニングとは指導者のもとチームで行うものを指します)

サッカーの試合は大人であれば90分で、その時間内に100%のパフォーマンスをすることが大切になります。トレーニングもそれに合わせ、時間内でどれだけ質を高められるかが課題となります。

日本では「居残り練習」「怒涛の3部練」「6時間の過酷なトレーニング」といった見出しが、メディアを飾りますが、これは指導者・選手目線からすると、ありえないことではないでしょうか。

なぜなら、裏を返せば「私は設定された時間内で質の高いトレーニングを行えませんでした」と言っているようなものだからです。実際の試合でアディショナルタイムは、せいぜい数分しかありません。にもかかわらず、トレーニングでは勝手に数時間の「アディショナル」が付くわけですから、合点がいかない話になります。

トレーニングを質と量に分けたとき、量を増やしすぎると疲労が溜まり、質を下げる。つまり、効果的なトレーニングを行うには、一定量のなかで、いかにトレーニングの質を上げるかにかかっている。

長時間トレーニングをしたからといって試合中の疲労に対する耐久はつかない

「疲れた状態からどれだけ頑張れるかが勝負の分かれ目だ」という理由から、長時間トレーニングを美化している人がいるようですが、それはまったく意味がないトレーニングといえます。

その理由となるのが、疲労の種類が違うという点です。トレーニングや試合中に起こる疲労は急性疲労と呼ばれる、筋の酸化とエネルギーの枯渇が主な原因となる疲労です。一方、日々の疲労が蓄積されて起こるのが慢性疲労で、筋の損傷と神経の中枢性疲労から起こります。

長時間トレーニングで起こるのは慢性疲労で、この疲労に対する耐久は試合中にあまり関与しません。また、トレーニングの効果は慢性疲労がないほうが高まるため、いかに日々の疲労を蓄積させないかが重要となるのです。

意外に見落としているトレーニングの質を上げるポイント

実際にトレーニングの質を上げるには、意外とトレーニングで起こるロスをなくすだけでも大きく違ってきます。以下にポイントをあげたので、是非参考にしてください。

※ここであげるポイントにはカテゴリを特定していません。そのため、書かれているポイントをカテゴリや選手のレベルに合わせて適宜活用してください。(小学校低学年での夏場のトレーニングでは、熱中症になりやすいため十分に身体を冷やす時間を設けるなど)

ドリンクの時間を休憩の時間と勘違いしている

トレーニング中に入れるドリンクタイムですが、あくまでも水分補給が目的で、休憩ではありません。ありがちなのが、日陰で座っておしゃべりをしながらドリンクを入れている光景です。これでは心拍数も落ちてしまうし、集中力も散漫になりやすくなります。

トレーニングでボールがアウトしてしまったとき、中断してボールを取りに行かせる

試合で選手がボールを取りに行くことはありません。もし、トレーニング中にボールアウトで選手がボールを取りに行っている時間が一回20秒だとして5回中断したら、100秒もプレーが止まってしまう。選手には常にプレーについて考えさせる環境を指導者は用意したい。

次のオーガナイズに移る時間が長い

選手が次のトレーニングにスムーズに移行できるように、指導者は次のオーガナイズを意識しながら行動する。同じ場所で次のトレーニングに進むのであれば、もとにおいているマーカーの位置をあまり移動しないようにしたり、他の場所であれば、予めグリッドを作っておくなど工夫ができる。

道具の置き場所を意識する

マーカーやビブスなどは、指導者が取りやすい位置に置いておく。指導者はなるべく動かずに、広い視野と継続的な声がけを保てるように意識しよう。もちろん、選手に教えるときは目一杯、表現しよう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です