フィジカルが独り歩きしている日本。サッカー選手にとっての体を見つめ直す

サッカー選手にはボールを扱う技術や組織として動くための戦術、そして試合を通じ、技術と戦術を高いレベルで遂行するために必要な身体。これら3点が大事な要素になる。

なかでも身体に関して、日本では「フィジカル」という言葉が一般的に使われている。しかし、その言葉に対して日本では定義がされておらず、筋力やスピードなど広義に解釈されたままだ。

そこで、ドイツ在住15年。U-9からU-19の全カテゴリーでの指導と、レギオナルリーガ(ドイツ4部リーグに相応)で監督を務めた経験を持つ杉﨑がお伝えする。

私が日本で指導をしていた頃は、「身体つくり=筋トレ」という考え方が一般的だった。筋トレの中身も、いわゆる回数を多くこなす、重いものを持ち上げるといった筋肥大を目標にしたものが大半だった。

実際、昔のドイツでもその様なトレーニングが行われていたようである。しかし、運動生理学の発展とともに、「身体を大きくすること≠サッカーの上達」という考え方に移り変わった。

フィジカルとは5要素から成り立っている

誤解を招く前に説明をすると、筋トレを真っ向から否定していない。U-15のチームに帯同していた時、選手は180cm以上の身長に筋肉の鎧をまとったような、なんとも偉丈夫な選手と対峙することも多々あった。こうした相手と年間をとおして、ケガなく当たり負けしない身体を作るために、筋トレは定期的に行う必要はある。

ただし回数を多くこなし、重いものを持ち上げるのではない。体幹を鍛えることをメインに週4回の練習の中で2回、10分から15分取り入れる。短く・集中して実施するように心がけていた。

いわゆる「短期集中の筋トレ」の理由は、限られた時間の中でサッカー選手の身体を作る5つの要素をバランスよくとることがトレーニングにおいて重要だと考えられているからだ。

1.筋力…上記で書いたようにダンベルなどの重い道具は、ケガのリスクも増加させることもある。そのため基本的には使用せず、体幹を中心としたトレーニングを徹底させた。その際の大事なポイントは、正しい姿勢で行うこと。また、こなすのではなく、トレーニングをすることで得られる効果についてしっかり説明すると、選手もより意識を高く持って取り組むことができるだろう。無論、指導者に知識があることが前提だ。

2.持久力…一試合走れる体力が付くことで気持ちに余裕が生まれる。これにより集中力が途切れずイージーミスが減り、最後までチーム戦術を遂行できる。持久力を上げることは精神面においても必要な要素である。具体的なトレーニングとして、プレシーズンでは心肺機能の向上を目的とした負荷の高いインターバルトレーニングを実施。この際、ただ走るだけではなく、ボールを使いながらの練習メニューを取り入れると選手も意欲的に取り組むことができるようになる。一方、シーズンが始まると疲労回復がメインになるので、軽度の有酸素運動がメインとなる。

3.アジリティー…サッカーは直線を速く走る能力も必要だが、前後左右すべての方向に素早く、かつ頻繁に動き続ける能力も重要となってくる。この能力を向上させるためには、ラダーなどを使用したり、ハードルなどでジャンプ動作を取り入れたトレーニングが有効だ。

4.柔軟性…身体をほぐすことで、トレーニングや筋トレによって収縮した筋肉を弛緩させたり、関節の可動域を大きくすることでケガの予防にも繋がる。練習の前後に必ず行うが、特に練習後のストレッチは疲労回復を促進させる意味でも大事になってくる。

5.コーディネーション…東ドイツで生まれたこの言葉は、リズムやバランス、識別能力などの能力に分類される。コーディネーションの目的は神経系を鍛えることで身体に素早く脳からの信号を送れるようになり、コンパクトで早い判断が必要とされる現代サッカーでは必要な能力となっている。

このように、サッカー選手のフィジカルとは、上記5つの要素が非常に大事になってくる。ボールを使用した練習メニューにこれらの要素を組み込むことで、選手が飽きることなく、しかも技術的な練習もでき一石二鳥の効果を得られるだろう。私がU-15で実施していた週のトレーニング例について、以下に示しておく。

【トレーニング例】1回約90分
日曜日 試合
月曜日 持久力(リカバリー)・コーディネーション・筋トレ(体幹中心)柔軟(60min)、ゲーム(20~30min)
火曜日 コーディネーション・筋トレ(体幹中心)・柔軟(15min)、オフェンス戦術(45min)、ゲーム(30min)
水曜日 コーディネーション・アジリティー・柔軟(15min)、ディフェンス戦術(45min)、ゲーム(30min)
木曜日 オフ(各自筋トレ)
金曜日 アジリティー・柔軟(25min)、シュート練習・セットプレー(35min)、ゲーム(20~30min)
土曜日 オフ

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ABOUTこの記事をかいた人

杉崎達哉(すぎざき・たつや)神奈川県出身。明治大学卒業後、2006年ドイツのケルン体育大学入学。同時に指導者としての勉強を始め、これまでU-9からU-23すべてのカテゴリーで指導経験を持つ。ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA A)保持。現在はドイツパーソナルトレーニング会社「proffac」にて唯一の日本人トレーナーとして活躍中。一方で、有限会社フルサポート代表取締役社長として、「うまくなるためのサッカー留学・遠征」をモットーに、ドイツを中心とした留学および海外遠征の企画・実施も行っている。