すべては試合から逆算する。「技術と戦術をわけて考える」からの脱却

なぜ技術と戦術を分けて考えるのか?

「うちの選手は技術が高くないので、戦術の練習はまだしないほうがいいでしょうか」「一回の練習の内、何分を基礎練習に当てたらいいですか」。

これらは、日本で開催されたスペインサッカーの講習会で、日本人指導者がスペイン人指導者に質問した内容です。こういった内容は、日本各地で議論されているようです。(※講習を受けた指導者の担当カテゴリーはジュニアがメイン)

しかし、スペイン人からしたら「なぜ、技術と戦術をわけて考えるのか理解できない」と、言います。

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目線の先はどこ? サッカーはサッカーをしなければうまくならない

日本人は、「土台」や「段取り」を大切にします。ある目的を達成するために、できなければならないものを細分化して、それらを一つずつマスターしながらステップアップしたり、物事が滞りなく進むように前もって手順を整えたりすることです。

サッカーであれば、「試合」を目的とすると、キックやコントロールの技術・守備や攻撃の戦術・持久力や瞬発力のフィジカルなどに分け、それぞれの項目をトレーニングすることが土台作りとイメージできるでしょう。

冒頭の質問「選手は技術が高くないので、戦術の練習はまだしないほうがいい」は、「戦術のトレーニングを行うために、基本的な技術の習得ができていなければうまくいかない」という筋道を立てて、質問したと考えられます。

そのため、日本には「ドリブルスクール」や「リフティングコース」といった、単一の技術に特化したスクールやコースが実在します。

しかしサッカーというスポーツの特性を考えてみましょう。例えば、試合のシーンを切り取り1対1が発生したとします。ボールホルダーは何をすれば、上手にパフォーマンスできるでしょうか。ドリブル・パス・コーディネーション・コミュニケーション・視野の確保・体の使い方・認知……。一考するだけでもこれだけの要素が関係しています。

多くの要素に加え、不確定要素の発生と消滅が連続するサッカーを細分化することは、選手の評価やトレーニングオーガナイズの構築に必要不可欠です。しかし、さまざまな要素が絡み合った環境でトレーニングをしなければ、サッカーの上達は難しいと言えます。

ただし、ボール扱いがまったくできないビギナーやフィジカルに不安がある選手に、いきなりプレーをすることは難しいかもしれません。ですので、そのような選手にとっては、キックの蹴り方やステップの踏み方などを単体でトレーニングすることはまったく必要ない、というわけではありません。

しかし忘れてはいけないのは、サッカーはサッカーをしなければうまくならず、技術単体のトレーニングがメインセッションにはならないということです。

Photo:unsplash.com【@jeffreyflin】

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トレーニングオーガナイズは試合のシチュエーションを再現することを心がける

サッカーのトレーニング書籍を手にとったことがある方はイメージしやすいと思いますが、年代が低いと、1対1や2対1といったプレー人数が少ないオーガナイズとなっており、年代が上がるに連れて、プレー人数が増えていく傾向にあります。

「そんなの当たり前じゃないか」、そう思う人もいるかと思います。ただ、その理由を理解している人はどれほどいるでしょうか?

サッカーが成り立つ要素は大まかに

  1. ゴール
  2. スペース(ピッチ含)
  3. ボール
  4. 味方
  5. 相手

にわけることができます。11対11であれば、各選手が「2つのゴール」「ピッチ」「ボール」「10人の味方」「11人の相手」と「複数の発生(消滅)するスペース」を、素早く正確に認知することで高いパフォーマンスが可能になります。

トレーニングをオーガナイズするとき、これらの要素は選手の「ストレス」として表すこともできます。要素が多いほど、ストレスは強くなります。選手の技術レベルによってもストレスの受け方は変化し、プレーにも影響します。

ストレスレベルの設定は、高すぎても低すぎてもよくありません。トレーニングの目的を達成できるように、また、指導者が意図したミスが発生できるように設ける必要があります。

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「ジュニアだから1対1のトレーニングが妥当」というわけではない

ジュニアのトレーニングでプレーする人数が少ないのは、上の年代のカテゴリーよりストレスを低く設定しているからに過ぎないのです。つまり、「ジュニアの選手だから1対1のメニューをする」のではなく、「ジュニアの選手に与えるストレスとして1対1のレベルから設定している」が、指導者として正しい認識です。

日本のジュニアでは8人制ですが、ドリブルのトレーニングをする場合、どのエリアでのプレーなのかによって、オーガナイズが全く異なってきます。前線であればフィニッシュのための、中盤であればサイドチェンジのための、自陣であればボール保持のためのオーガナイズになるはずです。

そのトレーニングの中で、チームのレベルによって先ほどの①〜⑤の要素を調整していきます。選手にも、トレーニングが試合のどのシチュエーションを再現したものかを伝えて行うことで、技術と戦術が合わさったコーチングになるといえます。

ウォーミングアップでよく行われる「鳥かご」でさえ、目的が「縦の突破」か「サイドチェンジ」か、によってコーチングの質がまったく異なります。

細かなポイントは割愛しますが、縦の突破であれば前線への最短距離であるDFとDFの間(門)を開けるためのファクターとして、サイドチェンジであればワンサイドにDFをうまく引きつけ逆サイドの選手をフリーにすることをファクターとしています。技術に特化すれば、縦に付けられるようにボールを置いているか、逆サイドに展開できるようにボールが来た方向から遠い足でコントロールをしているか、などが観るべきポイントとなるでしょう。

もちろん、他のトレーニング要素も同じ考えです。フィジカルの要素を強調したい場合、プレースペースを狭くしたりローテーションのテンポを上げたりすることによって再現することができます。

トレーニングのオーガナイズは、要素の細分化から組み立てるのではなく、試合のシチュエーションを再現することから行うことが大切です。そのなかで培った技術・戦術こそ、サッカーがうまくなる要素そのものと捉えることができます。

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