「サッカーはゴールすることを目的としたスポーツ」という前提のコーチング
指導者が選手に投げかけている言葉。その中で、プレーの選択肢を広げるためによく使われるフレーズとして「ドリブルかパスか」というものがあります。テレビの実況でも耳にするこのフレーズですが、じつは言葉の受け手である選手に対し、プレーの選択肢を限定させてしまっているかもしれません。
このように普段サッカーの現場で使われているコーチングフレーズの意味を、プレーの目的から考えてみましょう。
本題に入る前に「サッカーはゴールすることを目的としたスポーツ」ということを、認識のためにあえて書かせていただき、話を進めます。
8対8のジュニアの試合でも11対11の試合でも、サッカーのこの目的は変わりません。さらにプレーを局面に分解しても同じように、ゴールをするために「攻撃」「守備」「1対1」「2対1」……といったものがあります。
ドリブルやパスはプレーの手段の1つであることを確認しよう
ここではジュニアサッカーの試合のなかで行われたコーチングを例に挙げ、指導者が行うべき選手へのアプローチを考えてみましょう。
味方のFWがボールを持っている状態で、前方には相手CBが1人、さらにFWの後方から味方選手が駆け上がってきました。味方選手がそのFWの高さに上がるまでは1対1の状況、相手を抜けば残すはGKのみとなります。FWは味方が上がり切る前に、CBにドリブルで仕掛けるプレーを選択しました。結果はCBにボールをカットされ、シュートまで持ち込むことはできませんでした。
ハーフタイムに入り、そのプレーに関して「なんで味方にパスをしなかったんだ?」と、コーチが選手に問いかけます。コーチの考えとしては、「(2対1の状況を作ってから仕掛けたら、より確実にゴールが狙えるのに)」という前置きがありますが、実際には言葉として伝えていません。
選手からしてみるとコーチの問いかけは
「(間違ったプレーである)ドリブルに失敗した」→
「(正しいプレーである)パスをしなかった理由を聞かれている」
と感じてしまい、勝手に正しいプレーと間違ったプレーを決めつけてしまう可能性があります。

数的有利な場合、フリーの選手を効果的に使うことは、大切なプレーのセオリーです。しかし、必ずしもフリーである選手を使うことが正解ではないことも確かです。
この場合、FWの選手が周囲の状況をどれだけ認知しているかを確かめた上で、「どのような手段でゴールをしたかったか?」という聞き方がベターです。もし選手が返答に困っていたら、指導者はプレーの目的を選手と一緒に確認しましょう。
次に指導者は選手に対して
- 認知レベルの確認
- そこから考えられるプレー手段の確認
を一緒に把握することで、適切なコーチングができるはずです。
「パスかドリブルか」というコーチングは、選手がプレーの目的と手段を混同してしまう恐れがあります。
「◯◯をするために、パスをした」のように「目的のために手段を行う」ことを念頭に、指導者は選手にアプローチしていく必要があります。
そして、その最大の目的が「ゴールする」ことであることを、選手たちが常に意識できるようにコーチングを行っていきましょう。
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目的を明確にしたトレーニングで選手のモチベーションをアップ!
プレーの選択肢を限定させないコーチングは、日々のトレーニングでも大切になります。
そのひとつとして、トレーニングを行う前に目的をはっきりと明確にさせることが大切です。
よくある1対1のトレーニングでも
- 可能な限りすばやくフィニッシュを行う
- 相手の逆をついてボールを前線へ運ぶ
- プレースペースを確保してボールを受ける
など、さまざまな目的を設けることでコーチング内容は全く異なるものになります。
選手も目的を理解してトレーニングをすることで、試合の「どのようなシチュエーションなのか」をイメージしながら行うことができ、モチベーションの向上につながります。
良いプレーだけを褒めるコーチング法
また、テクニックのひとつとして「評価ポイントを強調する」コーチング方法があります。
まず評価するプレーを決め、選手が目的に沿ったプレーができたら一旦プレーを止め、思い切り褒めます。反対に、評価するプレーの対象外であるときはフリーズせず、ある程度流してしまいましょう。
このテクニックの特徴は、トレーニングの目的に対して指導者が思い切りリアクションすることで、選手がトレーニングの目的を終始、意識し続ける効果が期待できます。
とくにジュニア世代の選手では、技術的なミスが発生しやすいため指導者が、それぞれのミスに同じテンションでコーチングすると、選手は注意する要素が多くなり、集中力が散漫になります。

ゴールを目的とするトレーニングであれば、その目的に対する直接的なプレー以外ではテンションを下げ、フィニッシュ前のボールの受け方やシュートの質など目的に沿ったプレーに対してだけ、テンションを上げて選手と接しましょう。もちろん、選手によってレベルは異なりますので、指導者はどの部分まで細かく観るのかを見極めながら指導を行う必要があります。
指導者のアプローチテクニックを紹介しましたが、プレーの選択肢をクリエイトできる選手を育てるために、指導者は選手にトレーニングの目的を理解させ、高いモチベーションを持たせられるコーチングを行っていきましょう。
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