スキル向上のためのモチベーションの重要性~スペインリーガクラブの取り組み〜

近年、VAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)の導入・採用、GPSで走行距離をデータ化できるウェアを身に着けてトレーニングを行うなど、テクノロジーの進出はサッカー界も例外ではありません。

テクノロジーが、これからもサッカーのあらゆる場面での登場が予測されますが、ピッチの上でプレーしているのは生身の人間。選手がポジティブにトレーニングに励み、試合で実力を発揮するには、コーチの接し方が大きな影響を及ぼしています。

そこで、スペイン在住の筆者がスペインサッカーコーチングライセンスコースLevel1の受講で学んだ、「モチベーションとトレーニング」についての話を紹介します。

ジュニア選手たちのモチベーションは外的要因も含めて考えよう!

受講時に使用した『モチベーションと集中力』をもとに筆者が日本語訳

教育論の授業で紹介された上記の図は、選手が技術を習得するまでのプロセスを示しています。サッカーのみならず、スポーツで上達をするためには6つの要素がスムーズに循環していて、その根底には図の上部に書かれている「モチベーション・集中力がある」が必要不可欠だと説いています。つまりこの2つが欠けてしまうと、「目的」「集中」などの要素を取り入れるうえでプロセスを踏むことが難しくなり、結果としてトレーニングの効果は下がってしまいます。

そのためスペインでは、特に育成世代の指導者にとって選手のモチベーションをどのようにコントロールできるかが大切だと言われています。身体・思考の変化に加え、環境の変化に感化されやすい育成年代の選手は、私生活での出来事がサッカーに影響を与えることが多くなります。そのため、学校生活や家族との関係など非常に敏感な時期に、周りにいる大人からの言葉が、思わぬネガティブな思考へと働くことがあります。指導者はトレーニング前後の時間に意識してコミュニケーションを取るように心がけましょう。コミュニケーションは単なる会話ではなく、選手のポジティブとネガティブの要素を見つける大切なコーチの仕事です。コミュニケーションを取った上で、指導者はどのような言葉を選ぶべきか注意を払い、選手のモチベーションを上げていきましょう。

選手のモチベーションを上げたら、次に大切なことはトレーニング内容の設定・説明に移ります。ここが指導者の腕の見せ所です。レベルにあったセッションを組み、トレーニングの目標を明確にして、できる限り簡潔に説明しなければなりません。ここで冗長に説明してしまったり、レベルが高すぎるトレーニングを与えてしまうと、選手の集中力が切れる原因になってしまいます。余談ですが、スペインのトップ指導者は、声のトーンを変えて選手を指導することで、的確に選手の心に「刺さる」指導をしていると言われています。

選手がのびのびとプレーできるように親も立ち入り禁止のバレンシアCFアカデミー


バレンシアCFアカデミー

スペインサッカーでモチベーションが大切だということは、トップレベルのクラブでも見受けられます。

筆者が視察を行った名門・バレンシアCFの公式練習施設「シウダ・デポルティーバ」は、バレンシアの中心から5キロほど離れた郊外にあります。11人制のピッチを8面、8人制ピッチを6面完備、遠方の選手ための寮など充実した環境が用意されています。ここからイスコ(レアル・マドリード)、ジョルディ・アルバ(バルセロナ)、ダビド・シルバ(マンチェスターシティ)などトップリーグで活躍する選手が輩出されました。

平日の午後、保護者が運転する車から子どもが練習に向かう光景は日本と変わりません。しかし、保護者が立ち入れるのは、ロッカールームまで。グラウンドにつながる通路からは入ることができません。トレーニング中は保護者からピッチが見られないようになっています。保護者はトレーニングが終わるまで施設に併設されたカフェテリアで待つか、終わりに合わせて迎えに来ることになっています。

あえて保護者がトレーニングを見られないようにした理由は、親から選手へのプレッシャーをなくすことや、選手がサッカーと私生活の切り替えを行うためです。選手は周りを気にすることなく、トレーニングに集中して取り組むことができるのです。このようにして、選手のモチベーションと集中力を保つ工夫が徹底的になされています。さらに、地元から離れ暮らす選手のために心理カウンセラーを駐在させ、カウンセリングを行うなどメンタルケアにも徹底しています。


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ABOUTこの記事をかいた人

長谷川実広(はせがわ・まひろ) 神奈川県出身。SPF Sport Management S.L.国際部(スペイン・バレンシア)、バレンシアで外国人選手を対象にしたサッカー留学やスペイン人コーチ派遣などをおこなう企業にて日本マーケットを担当。 小学校からサッカーを始め、アルゼンチン、オーストラリア、スペインでプレー経験あり。語学力を生かしたサッカー通訳(スペイン語)や育成世代のコーチなども行う。 SPFインターナショナルサッカーアカデミー